■ □ Memory of you


「メイ、早く来てよ。」
「はいはい、ちょっと待って。」
メイが二人分のマグを乗せたトレイを持ったまま、ベランダに出てきた。そしてトレイを床に置き、僕の隣に座り、用意してあった毛布にくるまった。
「まだ熱いから、気をつけて。」
といいながらココアを手渡してくれる。
冷たくなっていた指先を熱いマグで暖めながら、一口すする。

「どのくらい待てばいいの?」
「そろそろ始まるよ。もうちょっと待ってみて。」

「これ、本当にあんたが作ったの?」
僕の目の前に置いてある装置を指してメイが尋ねる。
「そう。やっと完成したんだ。」
僕はちょっと胸を張って答える。
今日までに完成するか正直自信がなかったけど、どうにか出来上がった。テストもした。調整も万全だ。
「あんたが作った物がちゃんと動くのってまだ見たこと無いけど。」
「今度は大丈夫。絶対。」

「どういうしくみなの?」
「メイに説明したってわかんないよ。」
「失礼ね〜! 言っとくけど、あたしが元いた世界じゃ魔法より機械の方が発達してたんだからね。」
「壊した機械、直せなかったくせに。」
「う・・・それは・・・そうだけど。」
「今の僕なら、あれくらい楽に直せるんだから。」

将来魔法を勉強したいという子は多いけど、機械やからくりに興味があるって子は、僕の周りにはごく少ない。
魔法はメイが少し教えてくれたけど、それほど面白いとは思わなかった。何よりも、魔法では物を作ることはできない。
僕は自分の手で物を作るのが好きだし、遺跡で見つかる奴みたいなすごい機械をいつか作ってみたい。
そう言うと必ず、変わり者、という目で見られる。僕の夢の話を聞いて笑わないのはメイだけだ。

「楽しみだなぁ〜。まだ始まらないの?」
こういう時のメイは、大人が子供につきあっているって感じじゃないんだ。本当にわくわくしているのが伝わってくるから、僕も嬉しくてどきどきする。

「そろそろかな・・・」
僕は接眼鏡を覗いた。うん、ばっちりだ。
「メイ・・・こっち来て。見て。」
ちょっと横にずれて場所をつくると、メイがそろそろと体を寄せてきて、僕の隣にぴったりくっついた。ふわっと甘い香りがして、ぎゅっと心臓が痛くなる。
あたりが暗くて僕の顔が彼女に見えないことに感謝した。
メイは僕の代わりに覗いて歓声をあげた。
「すごい・・・見えるよ、はっきり・・・わぁ〜きれい!!これ、本当に天体望遠鏡なんだ。あっ流れた!!」
数年に一度の流星群が一番よく見える日。昔、星を見るのが好きだった、といっていたメイへのプレゼントのつもりで、この機械を組み立てた。
「メイ・・・」
「ん?あ、ごめん、あたしばっかり占領しちゃって。」
「いいよ。まだ見てて。
ねぇ、僕がこれを組み立てたときにいろいろ教えてもらったおじさんがいるって話したっけ?」
「あんたがお世話になってる工房の人のこと?」
「そう。その人、跡継ぎがいなくて困ってるんだって。それで、僕は筋がいいから教えてみたいって。」
「ふぅん。」
「春になって学校を卒業したら、住み込みで働きながら勉強しないかって。僕、お願いします、って言うつもり。」
「リュクセル?」
メイがぎょっとした声で聞き返した。
「僕はもっと勉強したいし、もっとすごいものを作ってみたい。この望遠鏡がちゃんと動いたらそうしようって決めてたんだ。
だから・・・」
僕はつばを飲み込んで、何度も練習しておいたセリフを言った。
「メイは安心して結婚して。」
「な・・・何言ってんの、あんた?」
「あいつのこと、好きなんでしょ?隠したってわかるよ。」

「馬鹿。ずっと一緒にいようって約束したじゃん。」
メイがぎゅっと僕に抱き付いてきた。本当にやめてほしい。僕はもう、初めて会ったときのガキじゃない。メイがいつまでもそんなだから、変に期待させられてしまうんだ。
本当に、ずっと一緒にいられるんじゃないかって。
メイがずっと僕だけを見ていてくれるんじゃないかって。

そうじゃないんだとわかったとき、悔しくてならなかった。
どうしてあと5年、いや3年でいい、早く生まれなかったのか。

「メイ、もう決めたんだ。別に全然逢えなくなるわけじゃないんだし。いいでしょ?」
「でも・・・」
「流れ星、終わっちゃうよ?」


だけど。
今夜僕たちが一緒に星を見たこと。
彼女の髪の感触。ココアの香り。
この思い出だけは、僕一人のものだ。
絶対に忘れない。年をとっても。大人になっても。
ずっと。


END.


★Presented by HENNA★1999/02/16★
★ for Ms. Nana@Lover's Room (メイ至上主義FC)★




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