Happy Birthday ?


ここは、王宮内の皇太子の執務室。
ノックの音と共に顔を覗かせた少女に、思わず相好を崩すセイリオス殿下であったが――。

「ブレンド1つ、おまちどおさま〜♪」
「やあ、メイ。早かったね。」

肩先できりっと切り揃えられた栗色の髪。
真っ白な糊のきいたエプロン。
(…うん。今日も可愛いな――)
涼風のような爽やかな微笑(文字通りのロイヤル・スマイル)をたたえながら、少女を鑑賞することを怠らない彼であった。

ウェイトレス姿のメイ。最近、口うるさい保護者の目を盗んで、城下の喫茶店でバイトを始めた。
以来、その店はえらく繁盛しているらしいのだが。
仕事を部下に丸投げして自分は日長、カウンターのスツールを暖めている某筆頭魔導士とか―。
レースとフリル満載の、女の子向けの内装にまるで似合わない背の高い三十男が、奥まった席に陣取って重苦しい空気を漂わせているとか―(笑)
噂はいろいろと聞くのだ。それを聞いて気持ちを焦らせるような彼ではない…はずだったのだが…。

「まさか王宮から出前の注文が来るとは思わなかったよ、殿下。」
「すまないね。こちらから行きたいんだが近頃監視が厳しくて。」
おしのびでバイト先まで会いに行きたいのだが、なんのかのと妨害が入る。
業を煮やしてとった緊急手段がこれ。つまり「出前」であった。
なかなかいいアイディアじゃないかと密かに自画自賛の皇太子である。

「しょうがないよ。殿下は王子様だもん。
あ、これはあたしのおごりね。お見舞い代わりってことでサービスしとく。」
「ありがとう。嬉しいよ・・・メイ、もしよければゆっくりして行かないか?」
そしてぜひとも、三日遅れの彼のバースデーを一緒に過ごして欲しい…。
とっておきの笑顔で、さり気なく誘おうとした彼に対して、少女はこれまた輝くような笑顔で即答した。
「あ〜〜ごめんね〜。バイトはこれであがりなんだけど、予定があるの。
バーゲンに行くんだ♪」
「バーゲン?」
「そう!『セイリオス殿下お誕生日おめでとう記念!初夏の大バザール』♪」
「・・・」
「今日が最終日なの。だから今日はもう行くね。今度はお店にも来てよね〜」

――バタン
 無情にも扉の閉まる音に、彼は大きなため息と共に頬杖をついた。
「・・・まさか自分にまで妨害されるとは、思わなかったな・・・」

切れ者と噂の若き皇太子――。彼の恋はいまだ前途多難…らしかった。



   
   
+ by Henna@StrangeFruits +
バックの色は"RoyalBlue"。少々目に痛いかもですが殿下に免じてお許しを(笑)。

   


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