スーツアクターの常識をくつがえした『赤い悪魔』

 スーツアクターでこの人は本当に強いに違いない、と感じたのは中村さんが初めて。
 それぞれ一つ一つ取ってみても・・・手袋を通してもわかる鍛え上げられたあの拳…ずいぶん、巻藁を突いていたに違いない。ブーツを履いていても、見事に作られる中足底。そして、まっすぐ通った身体の軸…権藤俊輔さんも見事な軸を持っているが、彼の軸のとり方はどちらかと言うと古流の武道に通じるもののある独特の手法、中村さんのそれは鍛え上げられた強靭な足腰の筋力に裏打ちされたものだ。そのすべてを支える筋力は、ストイックに鍛えられた権藤さんとは違い、ナチュラルに伸びやかに発達したように思える。
 そして、その肉体が繰り出すすべてが寸止めになっていない攻撃力。(中盤からの突きはインパクトの瞬間を変えて相手にダメージが残らないようにしているようだが、蹴りはまったくと言って良いほど止められていない。怪獣さん、ご苦労さまです。)怪獣を自分の筋力だけで頭上まで持ち上げるパワー。(少なく見積もっても怪獣の着ぐるみを着た人間って100キロはあるのでは?)また、あの目のほとんど見えない状況で体重の乗った蹴りを放つというのは大変なことだと思う。特に廻し蹴り、足刀というのは目でバランスを取りながら出す技なので、よっぽど自分の力量に自信がなければできることではない…と思う。
 そして、とくに「ウルトラマンダイナ」で見せたマスク越しに見える表情の豊かさ…真っ正直で正義感の強いアスカ隊員そのもののような男らしさに私は魅せられた。東映系の戦隊ヒーローがよく見せるオーバーアクションは何一つないのに、拳一つ、蹴り一つ、叩伏せられてもまた起き上がる不屈の闘志、その戦う姿だけで、ウルトラマンの、ウルトラマンに変身する前の主人公の心情が、そして、中村浩二さんのマスクの下の表情が私にはわかる気がした。彼は、やはり俳優なんだ…とつくづく思った。
 ところで、中村浩二さんはそのマッチョな肉体、その技量・演技力ともに今までのスーツアクター(ウルトラマン、東映系ヒーロー等を含めて)の常識を覆えしたニュータイプだと私は思っている。また、彼をウルトラマンにした円谷スタッフの慧眼にも敬意を表したい。(高野スーパーバイザーはウルトラマンに入っているうちに痩せるだろうと思って採用した…って話があるらしいけど、本当かな?)