連続推理小説『黄昏の死角』 第11話

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 鈴木の言葉を聞いた岩岡はニヤリと笑った。中原は唸った。村上には何か思いつくことがあったらしい。急に目の前が晴れた、という顔をしている。
「コンクリの塊は飛び込んだ音だけを…!」
「そう考えないと、都合よくマンションの真下に沈んでたコンクリートブロックの説明がつかない。もちろん、何の関係もないブロックが沈んでいたという可能性もないわけじゃないが」
「それで? 賢明なるわが鈴木大先生は、誰が殺ったかちゃーんとお見通しってわけだろ、おい!」
「そこがまだ推測なんですがね。事件の関係者で、川に飛び込まずに逃げられる者がひとりだけいる」
「あ…」
 村上と中原が息を飲んだ。
「岩原っスね!」
「そう。でも厳密に言うと、マンションの住人はすべてあてはまると思う。大矢を撃ったあとベランダに出て、シャツと靴を投げる。外部に逃げたように見せかけるためだ。さらに用意しておいたコンクリートブロックを川に投げ入れて逃げる。このとき、外部の人間だとしたら、外へ出るときにどうしても1階で見張っていた岩原か管理人の目につく。道路へ出たとしても中原から丸見えだ。マンション内に潜んでいたとしても、しらみつぶしに捜査しているから逃げる隙がない。それよりも、空き部屋の201号室のベランダにコンクリートブロックをあらかじめ置いておき、ベランダ伝いに逃げるときにブロックを落とし、そのまま階段室の窓から中に入り、エレベーターを使って自室に戻るほうが確実だ。岩原が犯人ならもっと簡単で、自分の部屋のベランダにコンクリートブロックを置いておけば他人に見とがめられる心配はない。その後、隣の物音に驚いたふりをしてドアから顔を出せばいい」
「確かに秀樹も岩原も背丈がおんなじ位っスよ」
「うん。私も話を聞いたときに見たが、ふたりとも中肉中背でたぶん170センチ位だろう。でも…」
「でも物証がないんですよね…」
「それに動機も不明だ。だからマンションの住人をもう一度洗ってみる必要があると思う。いいですよね、デカ長」
「そこまで考えてるんならやってみろ。ただし…」
「笠井警視には黙って、ですか」
「おう。どうもあの若造は苦手だ。嫌いじゃねえんだが、あいつの前へ出るとどうも緊張しちまう。まあ事を荒立てなくっても、多分このまま起訴まで持ってけると思ってるんだろうし」
「目撃者をもう一回洗うとでも言っといて下さい。でも、もし証拠がつかめないと容疑者は…」
「無期は確実でしょうね、諸君」
「け、警視!」
「いたんスか!?」
「いつの間に…!」
「動機も含めた状況証拠は十分、物証も十分でアリバイがない。保険金目当ての計画的な犯行で情状酌量の余地はない。容疑否認で反省の色もないとすればね。しかし鈴木君の意見、興味深く聞かせていただきましたよ。どんどん洗って下さい。私は真実に仕える人間ですから」
「は、はい。じゃ、デカ長、行ってきます」
「鈴木君の話自体にもまだ矛盾点があるようですから、頑張って下さいね。私もその間にひとつ調べものをしておきましょう。少々気になることがあるものでね」
「何です?」
「なあに、些細なことです。切り口ですよ、切り口」

(続く)

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